序章

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明治三年十月十日 この日、ある一人の浪人が処刑を待っていた。 「罪人の名は大石鍬次郎。坂本龍馬殺害の罪で斬首の刑に処する!!」 何処からかそんな声が聞こえたが当の大石は他人事のように聞いていた。 「おい!!貴様聞いているのか!?」 まるでこれから死ぬとは思えない大石の態度に官軍の男が腹を立て大石を殴った。 背中に痛みが走り大石はギロリと男を睨む。 「ヒッ……!!」 大石の形相に男は「態度を謹め。」と言い残し足早に去って行った。  ハァ… 男が去り静けさが戻ると大石は深いため息を付いた。 新撰組に入って以来、敵となる人物は殺してきたが罪状となる坂本龍馬は殺していない。 しかしそれを弁明した所で今天下を動かしているのはかつて新撰組の敵であった者達であった。 彼らは新撰組を恨んでいる。 それは局長の近藤が処刑され副長の土方が死んで消える事は無かった。 (俺が死ぬ事で奴らの気が済めばそれでいい…。) かつて人斬りと恐れられていた大石は新撰組と言う組織の代わりに自分が殺される事で恨みを受け止めようとしていた。 (それが新撰組を誰よりも愛していた近藤さんや土方さんの為に俺が出来る最後の仕事なのだから…。) そんな事を考えていると自分を呼ぶ声がした。 「大石、時間だ来なさい。」 いよいよ処刑の時間となり大石は立ち上がり処刑場へと向かって行った。
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