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道場に入るなり土方と大石は稽古を始め竹刀を振るった。
「はぁ…少し休むか。あれ、近藤さんと総司は?」
稽古が一段落し周囲を見ると二人がいなかったので土方は隣でバテている鍬次郎に聞いてみた。
「近藤さんなら…さっき沖田君にやられて痣作って二人でノブさんの所に行ってたなぁ…。」
「総司か…あいつはあり得ない位強いからな。」
「天才だよ沖田君は。」
決して近藤が弱い訳では無い、沖田が強すぎるのだ。
その強さ故に弱冠二十歳の沖田が近藤が開いている試衛館道場の塾頭になっている程だ。
「…なぁ鍬次郎。お前、浪士組の話は聞いたか?」
少し静かになった時、土方がポツリと大石に言った。
「…ああ、以前近藤さんから聞いたよ。土方さんも行くんだって?」
浪士組とは来月、将軍上洛に先駆け京都まで警護をする浪人の集まりである。
身分等は関係無く参加出来るので近藤や沖田そして土方も参加する話は前々から聞いていた。
「…お前も来いよ。」
「…………。」
少し考えたように何も話さない大石。
以前近藤に話を聞いた時も誘われたが大石は断っていたのだ。
別に大石は浪士組に参加したくない訳では無かった。むしろ近藤や土方達と共に国の為に少しでも自分の剣を役立てたいとも思っている。
「俺は大工だから無理だよ。」
考えた末に大石が言った言葉に土方は笑った。
「んな事言ったら俺だって薬屋だから無理だ。」
「行きたいけど俺…今まで面倒見てくれた親方を置いては行けないから…。」
「そうか…。」
絞り出すように言った大石の言葉に土方は一言呟き、それ以上何も言わなかった。
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