『はぴすと』

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「……」  私は、藤垣美奈の住んでいるマンションの前までやってきた。藤垣美奈は、部屋にこもっているはず。『ひとつのシンジツの愛』の通りに藤垣美奈は、ホストに襲われたはず。そのまま、部屋に逃げ込んだ。すべて、想像していたとおり、藤垣美奈は動いている。問題ない。  私は藤垣美奈に電話して、真実を告げる、今まで言ってやりたかったことを、全て告げていく。『はぴすと』の作者が私であること。『天使の本棚』が不思議なサイトであること。今まで私が『ひとつのシンジツの愛』を書き続けていたこと。そして、これからどうするかということ。  藤垣美奈は自分の口で言っていた。『ひとつのシンジツの愛』のラスト、主人公は事故死か、もしくは自殺によって最期を迎える、って。その方が感動するじゃん、という言葉を付属させて。実体験と偽っているのに、最後はデッドエンド。そんな不条理さは滑稽だけれど、今の私にとっては藤垣美奈がそういったスト ーリーにしようと思ったことが、むしろ喜ばしいことだった。だって、藤垣美奈自身が決めたことが、藤垣美奈へと返ってくるのだから。そうするために、私は藤垣美奈の決めた通りに『ひとつのシンジツの愛』を終わらせる、完結させる。『ひとつのシンジツの愛』の主人公、ミナを自殺させる。  藤垣美奈は電話で、私に「やめて」と連呼した。「何をいまさら言ってるの?」と言ってやりたかった。  でも、私は冷静に、これからすることだけを淡々と告げた。聞こえてくる狂ったような藤垣美奈の声を無視して、通話しながらケータイ小説の編集ページを開く。もちろん、『ひとつのシンジツの愛』の編集ページ。あと書くべき文章は、結末だけ。結末の、二行。そこに書くことはもう決めてある。
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