『はぴすと』

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 私はあらためて、藤垣美奈のマンションを見上げる。藤垣美奈はこのマンションの自分の部屋にこもっている。本当は、目の前で事実を突きつけてやりたかった。泣き叫ぶ藤垣美奈の姿が見たかった。必死に謝る藤垣美奈の姿をこの目に焼き付けたかった。謝る藤垣美奈に対して許さないという態度を貫きたかった。  でも、結末のことを考えると、踏み込むことは良くない。  だから、結末だけを確認しようと、ここまでやって来たのだ。 「……」  私は喚き散らす藤垣美奈の声を無視して、私はケータイのボタンを指で撫で始める。 『アタシは』  頭に浮かぶ、藤垣美奈の顔。高校に入学して、一番はじめに私に話しかけてきた女。私のことを『親友』と称して、連れまわした女。共に過ごした時間は多い。たくさんの思い出がある。高校生活の中で発生するイベント、そのイベントも彼女と一緒だった。時には、藤垣美奈を頼ることもあった。藤垣美奈に恋愛相談 したこともあった。藤垣美奈は恋愛に関しては、私よりも達者な女だったから。いろんな話をされて、いろんな話を聞いてもらった。藤垣美奈は常に自分に素直な女だった。自分のしたいことだけをして、自分の為だけを考えて、自由奔放傍若無人な女。自分至上主義だった。でも、だからこそ藤垣美奈は藤垣美奈だった。あの藤垣 美奈の笑顔は、藤垣美奈だったからこそ、輝いていたのだと思う。眩しいくらいに、きらきらと。だからこそ――ムカついた。 『 自殺した』
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