『はぴすと』

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 そうして、私のケータイ小説『はぴすと』はランキング一位になった。最初は、『天使の本棚』の「一位が一ヵ月続くと書籍化」ということを知らなかった私は、読んでくれた人の、書籍化希望! というレビューを見て、知った。書籍化なんてことは考えたこともなかったし、目指していたわけでもなかった。そうい うつもりで、ケータイ小説を書いていたわけじゃなかったから。でも、その書籍化の話を知った時に「もしかしたら」と思った。実際、私のケータイ小説はランキング二位のケータイ小説と、かなりの人気差があったから……かなり、現実味を帯びた話だと思った。  そういう書籍化を意識し始めた頃、私の周りに、異変が起きた。  件の好きな男の子が、頻繁に私にメールをしてくるようになった。それも、今までと比べられないほど、親しげに。その男の子と私は、『友達』関係だった。何の意識もない、恋愛の欠片も見えない、男女の友達。私が一歩踏み出すことができなかった故に、そういう関係だった。でも、その時から、変わった。  彼は確実に私を『友達』ではなく『女の子』として、見てくれていた。そういう意識的なものを、メールからじわじわと滲むように感じた。男の子の急激な変化に、私は嬉しさと戸惑いの板挟みになった。それでも、やはり嬉しさが勝っていたと思う。だって、ずっと、そういう風にしたかったから、そういう風に見ら れたかったから。今まで、こういうことになるなんてことはないと思っていたから、そのぶん余計に夢心地だった。男の子は、私を好きになることはない、そう感じていた。でも、その時、確実に男の子の気持ちは私のほうへと向いていた。私、杉沢晴美に対して、恋愛的な好意を抱いてくれているようだった。  そうして―― 「晴海。俺と付き合ってくれ」  私は、告白された。  答えは勿論。決まっていた。
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