『はぴすと』

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      「『ひとつのシンジツの愛』、これで決定! マジいい感じじゃん! けっこうありそうだし、愛とかやっぱりいれたいよね~」  美奈が、ケータイ小説を書き始めた。私としては少し、美奈が書き始めるということが気になった。美奈は今まで自分のしたいことをずっとしてきたし、我儘な部分もあって、私が何を言っても聞かない面があった。だから、だいたい私は美奈の話を真剣に聞くことは少ない。熱を入れて聞くには、つまらないことばか りだから。それに、聞いていて、たまに苛立つこともあるから。ただ、ケータイ小説は別。  ケータイ小説の話題に関しては、私は敏感だった。なにしろ、私は一ヵ月の間、ランキング一位を保持したかったから。二位との差は歴然としたものがあるけれど、不安はぬぐえなかった。何が起こるか分からなかったから。それに何より、私はどうしても書籍化させたかった。書籍化して、ハッピーエンドを迎えたか った。『はぴすと』の中の、ハルのように。  『天使の本棚』の仕組みを知った後にはもう、『はぴすと』を私は完結させていた。主人公ハルと彼氏が結ばれて、永遠の幸せを約束する――そういう終わりを、書き終えていた。それはもう、私の妄想の最終地点。私にとっての最大の夢。なによりも甘美たる最終目標。  そこに至るために、私は一位の座を譲るわけにはいかなかった。  美奈が『天使の本棚』で書き始めると聞いた時はさすがに肝が冷えたものの、それでもそう簡単に一位になれるわけがない、と自分に言い聞かせて安心させた。実際に何百、何千の作品が連載している『天使の本棚』で、私はダントツで一位になっている。その地位はそう簡単に揺るがない。 「がんばって」  だから、私は美奈を適当に応援する素振りを見せた。一応、理由が小遣い稼ぎという不純なものだったけれど、それでも応援している振りをしようと思った。その方が、なんとなくいい気がして。
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