『はぴすと』

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 どう頑張っても、美奈がランキングを上昇してくるようなことはない。そんなことはありえない。美奈の話を聞く限り、美奈はケータイ小説を甘く見ている。簡単に書籍化できるものだと思っている。多少なりとも工夫はするようなことを言っていたものの、それでもやっぱり無理なものは無理。ケータイ小説は多く、 シビアな世界がそこにはある。たまたま、私はランキング一位を獲得したけど、もう、この『はぴすと』以降、ケータイ小説を書いたとしてもランキング一位を取れるようなことはないと思う。まぁ、私は『はぴすと』が書籍化した後にケータイ小説というものに手を出すとは、思っていないけど。  だって、書籍化した後には、ハッピーエンドが待っている。  私の幸せが、未来にある。  とても楽しみなんだよね、今まで夢見てきた世界が、やってくることが。 ――『ひとつのシンジツの愛』 十九位――    衝撃だった。開始して、二日。たったそれだけで、ランキングに美奈は割り込んできた。そんなこと、ありえない。確かに、美奈は人気を取るために、いろいろと考えて『ひとつのシンジツの愛』を書いていた。でも、まだ二日しか経過していない。ストーリーだって、そんなに進展していない。それなのに、こんなに もランキングが上がってくるなんて、予想外。考えられない。  でも、美奈からこのことについて話を聞いた瞬間、私は納得した。さらにそれと同時に私は焦りを覚えた。  美奈は、学校にある多くのパソコンを使って、自分の作品に投票し、ランキングを上げていたらしい。そして、これからも、その方法でぐいぐいとランキングを上げていくと、私に声高らかに宣言した。美奈は自慢気だった。「私頭いいじゃん!」みたいな表情だった。美奈は間違いなく、書籍化のために何でもする、そ う思った。でも、私にはどうすることもできない。そんなことしていいの? と美奈に聞いたところで、美奈は書籍化すればそれでいいし、と答えるだろう。美奈にとっては、もう書籍化のことしか見えてない。
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