『はぴすと』

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――『ひとつのシンジツの愛』 十位――  私と彼は、順調な恋人関係を築いていた。妄想の通り、二人で遊園地でデートしたり、二人で一緒に勉強をしたり、何時間も語り合ったり、ふとした瞬間にキ――顔を赤らめるようなことを、したりとか。とにかく、私は夢心地だった。望んでいた光景が、現実に目の前で起こっている。そのことを実感する度に、心が ふるふるとときめいた。  ハルと晴海。私は完全に彼女だった。  彼が、妄想の中と重なるように、私もまた、主人公ハルのようになった。『はぴすと』の通りに。 ――『ひとつのシンジツの愛』 七位――  美奈の嬉しそうな顔、その表情を見るたびに私は恐怖といった感情を抱いた。『はぴすと』の一位は変わらない。ずっと変わっていない、一位のまま。むしろ、読者は増え続ける一方で、二位との差は開いていくばかり。心配することなんて、何一つない。でも、それでも着実に順位を上げていく『ひとつのシンジツの 愛』を特別視しなければならないことは、仕方のないことだった。  理由はわかりきっているけど、少しばかり美奈のことが、よりウザくなった。 ――『ひとつのシンジツの愛』 五位――  私の『はぴすと』が一位になって、半月以上が経過した。半分は越した。でも、不安要素は消え去らない。美奈は私に嬉しそうに、楽しそうに、自分のケータイ小説のランキングが上がっていていることを報告してくる。そんなことは分かりきっているのに、私は「へぇ、すごいね」としか言えない。美奈のことだから、 もし『はぴすと』の作者が私だと知ったら、余計に力を入れてくるに違いない。もしくは、何も変わらないか、ってことも考えられる。少なくとも美奈は「今、晴美が一位だから、晴美の小説が書籍化するまで待ってるね」とか、そういった優しい言葉を発するような女じゃない。むしろ、自分の作品が書籍化でなくなってしまう可 能性もあるから、勝負だ、とかもしくは何も気にせず今と同じことを続けるに違いない。藤垣美奈は、そういう女。そのことは、今まで一緒にいて身に沁みて分かっていること。
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