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『 うぎゃあああっ 』
ディアの泣き声はいつも同じ時間に始まった。両親はその元気すぎる声に困り果てていた。それはディアの目覚めが決まって、夜明けとともに始まるからだった。
< スッ >
フィリア:「!!」
夜泣きが始まると直ぐにフィリアが現れ、屋敷の中を散歩させる事が日課になった。彼女は元々、早起きが習慣になっていたので散歩が苦になることはなかった。いや、寧(むし)ろこれはそれでよかった。
< ホゥホゥ… >
夜の鳥と朝の鳥の囀(さえず)りが僅(わず)かに混じるその時間が、フィリアにとって一番好きな時間帯だった。
< スヤスヤ… >
囀りが子守唄代わりになってディアは再び眠りについた。
フィリア:「…」
フィリアは眠りにおちた彼女の寝顔を見つめていた。ディアはマリアナの面影を一身に受け継いでいた。唯一違ったのは、父親から譲り受けた青い瞳だけだった。
フィリア:「ディア」
< クィ >
呟くように名を呼び、星が微(かす)かに残る空を見上げた。産まれた頃から比べると、はるかに大きく成長するディアを見つめ続けてきたフィリアにとって、彼女の存在が大きくなっていた。
< 朝 >
日がのぼり、屋敷の中が活発になって騒がしくなった。
侍女①:「マリアナ様ぁ~?!」
< ダダダダッ >
侍女らしい上品な動きを忘れてしまった侍女①がマリアナの仕事部屋に駆け込んできた。マリアナは夫の仕事を手伝うのが仕事だった。ディアの世話はほとんどと言って良いほどフィリアに任せきりだった。彼女は優しく侍女①を諭(さと)した。
< ぱたん >
マリアナ:「一体、何事です。礼儀の基本ともなる人が…」
開いていた本を閉じながら、ため息混じりに言った。
侍女①:「はぁはぁ…」
走って来たせいもあり、侍女①は息を調えてからゆっくりといった。
侍女①:「お、お、お嬢様が…ま、また…脱走を…!!」
マリアナ:「はぁぁ…」
マリアナは頭を抱えた。一歳にもなると周囲に興味を持ちはじめ、歩き回ってしまう。ディアの行き先は侍女がわからなくても、母親のマリアナがわからない筈がなかった。ゆっくりと椅子から立ち上がり侍女①に向かって聞いた。
マリアナ:「…フィリアは何処?」
侍女①:「え…フィリアさんは…訓練中です」
フィリアにはディアの世話をするほかにも、別にすることがあった。![image=172492465.jpg](https://img.estar.jp/public/user_upload/172492465.jpg?width=800&format=jpg)
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