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ゲンテルは父親を見て唖然とし、それから唇を噛み締めていた。
ゲンテル:「…しがない家だから。ボクが婿入りすれば…この家は安泰するから」
父親:「ゲンテル!」
< ぱんっ >
ゲンテル:「!」
父親は彼の頬を思いきり叩いた。ゲンテルは叩かれたままの状態だった。フィリアはただ、壁のようになっていた。
父親:「家の為に婿入りを決めたのか?!私が母さんとの約束は知っているだろう!」
ゲンテル:「…『政略結婚はさせない』でしょ」
< プルプル… >
父親の身体は怒りと悲しみで震えていた。
父親:「フィリア様…実は、我が妻はこの子が五歳の頃に他界しまして…「政略結婚はさせない」というのが遺言でした」
フィリアは父親の話を相槌を入れずに聞いた。
父親:「…ここは見ての通り、荒れ果てた庭をしています。この内装だけを保つのがやっとなのです」
ゲンテル:「…」
< グッ >
ゲンテルは両手を握りしめていた。
父親:「この土地は…妻や私の父が生存している頃は…辺りの貴族が羨むような環境だったんです。ゲンテルを目当てに結婚話が数多くありました。私は…妻との遺言を守っているうちに…名声が地に堕ちてしまいました」
ゲンテル:「ボクは誰とでも良かった。…小さい頃の記憶は…母上とゆったりとした庭いじりの時間で占めていたんだなのに…父上は母上が他界すると…」
親子は昔を思い出しているうちに、瞳が潤みだして泣いてしまった。
< グスッ >
< すっ >
フィリアは二人に違ったハンカチーフを手渡した。
ゲンテル:「あ、ありがとう…」
父親:「恐れ入ります…」
フィリアはその日、ゲンテルの屋敷に泊まることになった。彼女は四六時中、ゲンテルを観察していた。
ゲンテル:「…」
彼は彼女の視線に気がついていたが、注意することもなかった。どうこうしているうちに、フィリアが屋敷に滞在し始めて二週間が経っていた。二週間も経つと、怪盗の話がぱったりと止んだ。
フィリアはマリアナとレクサスの元に、有力な候補者の情報を手紙で連絡した。
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