第十六章。『瓦解』

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1階の廂の下、2つある窓のうちの道路よりの窓を背にし、陰なった出っ張り部分に2人並んで腰を下ろして待つ事30分、1台の黒いポーツカーが猪苗代駅方面の道から現われる。その車は別荘前で減速すると右に曲がって頭から敷地内に入って、そして、止まった。 「紺野さん、済みません、遅くなりました」 そう言って車の運転席側のドアから現われたのはあの鈴木であった。 「あらっ、鈴木さんじゃないの?」 予想外の人物の登場に驚いた瑠璃は右隣に座っている卓司に目を向ける。 「ほらっ、瑠璃さんのお父さんが今日は車を使うって聞いてたからさ……鈴木君に電話したら非番な上に車があるって言うし、鈴木君は瑠璃さんの『信奉者』でもあるから……」 「はははは、そう言う事だったのね」 事情を理解した瑠璃は屈託のない笑顔で鈴木を見ると、 「瑠璃さん、お久しぶりです……いやあ、それにしても瑠璃さんは何を着ても美しい」 白のポロシャツに白の短パン姿の鈴木は声を張り上げ、嬉しそうに卓司達の下へ近づいて来る。そして、鈴木の大袈裟な誉め言葉に照れたのか、瑠璃は少しだけ頬を赤らめている。 「すぐ分かった?」 「はい……それにしても凄い所ですね……それで、この中で殺人事件があったんですか」 噂には聞いてはいたであろうが、実際に見た山井の別荘と周囲の景色にびっくりしている。 「……紺野さん、ちょっと中を見せてもらっても良いですか」 若輩者なれど刑事の血が騒ぐらしい。 「うん、良いよ」 卓司が先に飛び降り、それから瑠璃を抱き抱えるようにして地面に下ろし、興味津々の鈴木を先頭に今度は3人で別荘の中へと入って行く。                                                                                              敷地内でユーターンした車はエンジンを掛けたまま猪苗代駅方面を頭にして道路上に止まっており、シートベルトをした瑠璃が助手席に座っていた。
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