第十六章。『瓦解』

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「ここがそうなのね」 瑠璃は淡いピンクの登山帽を脱ぎ、ペットボトルの飲料水を口にしながら、裏の物置小屋から少し進んだ地点で山井の別荘全体を見上げる。 山井の別荘が見えてからは早かった。物の5分と掛からずに敷地内に到着した。敷地内の地面は完全に干からびており、至る所に亀裂が走っていたが、ただ、別荘の周りは思っていた以上に風があり、強い陽射しは照りつけているものの、風のお陰で体はひんやりとして気持ちは良かった。 卓司は瑠璃から飲みかけのペットボトルを受け取るとそれを一気に飲み干す。 「……あ~~っ、うまい……ここまでさあ、40分ちょいなんだけど、これで雪が積もっていたらどうかな?」 「そうねぇ、少なくとも倍以上の時間は掛かるんじゃないの」 「という事は往復で3、4時間は掛かるって事か……」 卓司はそう言いながら立花で初めて出会った時に東郷から聞かされていた言葉を思い出していた。 「中を見てみる?」 卓司にはもう調べる事はなかったが、瑠璃がどうなのか分からず、念の為に聞いてみる。 「……折角来たんだから、少し覗こうかしら」 卓司は今立っている場所から正面入り口へ瑠璃とともに回り、それから、『ダラン』と垂れ下がった規制線を手で押し上げ、頭を下げて潜り抜け、把手部分が壊れたままの扉を開いて中へ入って行く。                                                                                      中は以前、見たままの状態、ガランとしていて一目で奧まで見通せる。が、少し埃っぽいのと『ムッ』とした湿度の高い空気が体全体を襲う。 「本当に何もないのねぇ」 「事件後、山井の遺族が片付けちゃったから……」 事件現場を初めて見た瑠璃は興味をそそられたようでドンドン中へ入って行き、1人であちこちを見て歩いている。 「ねぇ、2階も見ていい?」 エントランス付近で中にいる瑠璃の様子を見守っていた卓司は頷くと、瑠璃の後に付いて2階へと続く丸太の階段をゆっくりと上って行った。
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