第十六章。『瓦解』

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狭い2階に入って瑠璃は天井のない屋根裏を見たり、壁に触れたりするなどした後、北側の窓に近づき窓を開けて下を覗く。 「うわあ~~っ、結構高いのね」 体を半分程窓の外に出し、右を見たり左を見たりしている。そして、瑠璃の頭越しに卓司の目に飛び込んで来たのは、あの巨木の杉の木であった。                                                                                      「……思っていたよりはマシだったわ」 瑠璃が何を基準に比較しているのかは想像が着かなかったが、中を見終えた卓司と瑠璃は扉前の階段を下りた所に2人並んで立っていた。 「それで、帰りはどうするの?」 「うん、俺は帰りの時間も計りたいからもう一度山を登るけど、瑠璃さんには別ルートで立花に戻って欲しいんだ」 「別ルートって……」 卓司は瑠璃の問いに答えるでもなく、それだけ言うと、杉の枝の疵を確認するためなのか、左手に見える杉の木に近づいて行く。 高さ7メートル程の所にある太い枝に付いた疵はまだ残っていたが、時間の経過と雨風に晒され相当黒ずんでいる。 「凄い杉ねぇ」 瑠璃は自分の背丈の何倍もある杉を見上げて感嘆の声を洩らす。 「樹齢300年はあるんじゃないか」 「そうかも……ねぇ、それより別ルートって?」 瑠璃は話の途中で終わっていた別ルートが気になって仕方がないようである。 「あ~~っ、それね。それは、ここから立花まで車で戻って欲しいんだよ」 「車って !?」 驚きの声を上げた瑠璃は後ろを振り返り、辺りを見回す。 「……車なんてないわよ……卓司さんは免許持ってないし……あっ、タクシーを呼んだんだ?」 「ちょっと違うけど、それに近いよ。まあ、間もなく来ると思うからその辺の日陰で待ってようか」 瑠璃は不思議そうな顔をするが、再び別荘の方に向かって歩き出した卓司の後を追い掛ける。
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