一歩目、冷たくても暖かさを信じたい

4/14
前へ
/19ページ
次へ
そうだ、ボウシは閃いてしまった。 「おーい、カっちゃんー。こないださぁ、何かなくしてなかったぁー?」 満面の笑みで言ってみる。実際のところ、何かなくしてたなんて知るはずもない。 記憶にありませーん。 『ビクッ!』 反応があったぞ! な、なんか知らないがなくし物があったみたいだ・・・。 そう、ずばりカサはなくしていたのだ、野球のグローブのグリスを。しばらくは大丈夫なので、探しているようには見えない程度に辺りを彷徨っていたのだが、感付かれてしまったのか・・・。 いや、とここで自分の発想の甘さに気付くことができた。 流石オレ、ボウシと頭の出来が違う。 あの憎き木偶の坊め、フフフ、甘い。甘すぎる。 こないだとは、オレが「最近」なくし物をしたというニュアンス。 オレが無くしたと理解したのは一週間前。 「探してなかった?」 と聞けばオレももっと動揺したところだが。 この日本には、白黒していないグレーな言葉が多いから、騙されやすい。 これは、鎌を掛ける必要がありそうだ・・・。 「はぁ? 何時の話してんだよ? 最近は何もなくしてねーよ」 え? ボウシは愕然とした。反応は確かだったのに・・・・・・、でも・・・。 やっぱりそうなのか、相手にしてられるか! カサは、そう心の中で罵って、中断してしまった勉強を続ける。 カサは気付かない。 「何時の話してんだよ」 「最近は何もなくしてねーよ」 この二言が、なくし物があることを肯定していることを・・・。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加