2037人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
そんな彼のわたしの顔を押しつけてあるはずの肩は、向こう側の景色を写していた。
わたしは驚いて彼から身体を剥がし、彼の顔を見つめる。
何も言わず微笑んでいるけれど、これからくる別れがもう間近に迫っていることを、その穏やかな表情は告げていた。
こうしている間にも彼の身体はどんどん透けていってしまう。
そして彼が優しい瞳でわたしを見下ろす。
待って、まだ行かないで。
「もう、前を向いて歩いていいんだ、」
そう彼が残したのと、完全に消えてしまったのはどちらが先かわからなかった。
だけどもう呼んでも探しても、
彼が現れることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!