ロボトミイ

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この名前を聞いて手術方法とわかったら、なかなかの精神医学マニアです。 大脳の前頭部を切り取っちゃう手術です。そういう手術をうけると、すべての感情および考えがなくなるはずなんです。 2年前…おじいちゃんの患者さんなんだけど、ロボトミィ手術を受けた人を初めて見た。 頭の頭頂部に円を描くように丸い傷口が残っている、この患者はもう、ほとんど寝たきりなんだけど…口を金魚みたいにパクパクしてるんです。 「口をパクパクしてる。たしかロボトミィを受けた患者は、感情および思考が無くなるはずでは…」 初めて見る患者に対して、隣にいる先輩看護師に聞く。 「一応、文献では、そういふうになってるね。でも人間って不思議…この患者の口元に耳を近づけてごらん」 そう先輩看護師に言われて耳を近づける。 「レェ…ロレェホ…アラタ…ホロ…」 「???」 意味がわからない。それ以前にロボトミィ手術を受けた患者が、しゃべるなんて… 「不思議でしょ。ロボトミィ手術を受けているのに独語(ひとりごと)を話すなんて…」 先輩看護師が苦笑いをしながら、優しく話す。 「あのぅ…なんて言っているんですか?」 自分でも、目が見開いているのが、わかる。 「ロボトミィ手術で大脳の前頭野が切除されてるし…隣のブローカ野(運動性言語野:口の動きや言葉をつかさどる機能のある部位)も手術で多かれ少なかれ傷が入っているから…唇や声紋が上手く動かせないから…う~ん」 先輩看護師は、考えている。
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