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※花の里※
美人の女将、宮部たまきが営む、ちょっと裏道に入った場所にその店はあった。
裏道のせいか知る人ぞ知るといったお店である。
「なんか今日は多いですね…」
お手伝いの東条麗はポツリとたまきに呟く。
それはそうだろう。
先程も述べたがここは知る人ぞ知る店なのだ。
そんな店が現在満員となっている。
かってこの店が満員になったことがあるだろうか。
最近は警察関係の人間しかこなかっただけに少しばかり新鮮味を感じる。
「いやぁ、いい店ですな。女将さんもお嬢さんも美人で内装も生けられた花も素晴らしい」
カウンターに座っているお猪口を手にした男が話し掛けてきた。
「どうも有り難うございます」
「はっはっはっ。うちの若い衆は仕事柄のせいかいささか野暮ったい部分というか雑な部分があるだけに、細かな気配りに心暖まりますな」
「仕事柄…なんのお仕事ですか?」
麗が男に尋ね返すと、男は懐から一枚の名刺と数枚の紙を取り出した。
「これは失礼。
私サーカスの団長をしております、高田直樹と申します。
明日からこの土地でサーカスを公演しますので、よろしかったら観に来てください」
手渡されたサーカスのチケット。
赤い紙に胸踊るようなサーカスのイラストや文字が描かれている。
夢へのチケット。
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