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「寒い」
あまりの寒さについくちをついてでてしまった。
それもその筈で今は1月である。
「随分と積もったなぁ」
昨日の晩から降り始めた雪のおかげで今朝は見渡す限りの銀世界だ。
「こんなのは東京じゃ見られないな」
去年の秋からここU市に東京から越してきた俺にとって、誰にも踏み荒らされていない雪はとても珍しかった。そんなことを考えていると
「おはようございます、古谷さん。寒いですね」
隣に住んでいる伊東理沙が挨拶をしてきた。片手にはゴミ袋を持っている。
「おはようございます。いやぁ寒いですね。これだけ寒いと感じるのは生まれて初めてですよ」
「ふふ、東京と比べれば寒いかもしれませんね。特に朝方は」
理沙は寒さなど微塵も感じさせない笑顔で答えた。
「今からご出勤ですか?この寒い中大変ですね」
「いえ、仕事は嫌いじゃないので」
それに家に居ても嫁の幸子にこき使われるのがオチだ。
これは言わなかったが…
「それでは…」
理沙は一礼してゴミ捨て場の方へ歩いて行った。
俺も理沙に一礼をして、いつも通勤に使うバス停の方へ歩を進めた。
家からバス停までは徒歩で5分ほどで、あまり便利とはいえないこの辺りの住宅事情を考えると唯一の救いと言うべきか。
ちなみに一番近いコンビニは徒歩で20分という距離である。
俺はバス停に向う途中理沙の事を考えていた。
理沙は2年前に夫を事故で亡くした所謂未亡人だ。
色白で、いかにもお嬢様というような品の良さがある。しかも美人だ。
近所の男連中は皆、彼女のファンみたいなものだ。
俺も同じで今朝話しかけられて結構嬉しかったりする。
そんなことを考えているとバス停にバスが来るのが見えた。
小走りになり、バス停に着きバスに乗り込む。
目的地までは3駅であまり時間はかからない。
東京に住んでいた頃には考えられない通勤の楽さだ。
「次はU中学校前、U中学校前」
降りる為に降車口の近くに立ち到着を待つ。
「U中学校前、U中学校前」
プシューといいながら
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