昼なのにお月さま

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 ある日の出来事。私は猫になっていた。  隣に寝ていた彼が、いつもの私には見せない顔で「おはよぅ」のCHUをしてくれた。   彼が顔を洗う。彼が歯を磨く。彼が髭を剃る。  その横で、私は《人間ってめんどくさぃ…》と思いながら、顔を洗う。舐めては擦り、擦っては舐めて…。      彼が新聞を読む。彼がパンをかじる。彼がTVニュースを観る。その合間には必ず私の頭をなでて、優しい声で語りかけてくれる。 もちろんいつもの私には見せない顔で。  …ううん。そうじゃない。  正確には「最近の私には」だ。以前は見せてくれていた。忘れちゃうほど昔には。        思い出した。     この人はこんな顔で笑う人だったんだ。  この人はこんな口調で話す人だったんだ。
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