中さん

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「なあ、センセ?五分くらいのフライングは見逃してもいいんじゃないかな?」 やわらかな陽射しが事務机に当たっている。 なんの色気もない机や椅子とは対照的な程、魅力に溢れる女性。 一ノ瀬 春 年齢不詳 医師 スタイル抜群。 白衣の下はピンクのシャツ。ボタンは上から二つ目まで開いている。 「私、アナタの事キライなの」 振り向きながらそう僕に宣言する。 美人であるだけに冷酷さは2割り増しに感じた。 「知ってますよ。顔見ていたくないなかあって気を使ってみたんです」 「お気遣いなく。アナタはサンプルとしては限りなく貴重だからね。仕事は割り切る主義なの」 「…とか言ってるまにもう外出時間ですね。それじゃ!」 僕はセンセに背を向けて立ち上がる。 ここにいると、今更ながら息が詰まりそうになる。 「二時間たったら戻るのよ」 「はい」 僕は事務所の玄関に向かう。 もう二年…この診療所に入院していた。 外から見れば民家となんら変わらない外観。 周りの住民もほとんどがここが診療所である事は知らない。何せ看板さえない。 一ノ瀬センセは普段大学病院に通勤している。なので診療所とは言うものの、利益には全く無頓着だ。 大学の研究の一環らしく、多少の研究費も出ているらしい。 「…いい天気だなあ」 玄関を開けて外に出る。あまり交通量は多くないが、二車線の車道がある。 そこの脇にあるガードレールに座って二時間過ごす。 毎日の日課だった。 排ガスさえ、消毒くささに比べればなんて事はない。 衣食住、給料も少しだが出る。 そんな甘言につられ 一ノ瀬センセのところに厄介になっているのだが、帰る所があればとっくに出て行っている。 但し、あのセンセの仕事と割り切った姿勢はキライじゃなかった。
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