第一話

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「うわぁぁあぁぁあ」  僕は飛び起きて、目覚まし時計を見た。時計の針はもう八時半を回っている。  今日は中学三年の春の始業式。  期待に胸を躍らして、クラス編成の掲示板を見に行く予定だったのだが……どうやら、寝坊してしまったみたいだ。急いで制服に着がえて、学校に向けて疾走する。  両親は、今年の春父親の単身赴任で広島に行ったため、不在。可愛い息子を差し置いて両親が行った理由は、僕の懸命な説得があったからだ。どうしても、この町を離れたくなかった僕が、一人暮らしをすると懸命に対抗した所、寛大な両親はしぶしぶと承諾した。  そして始業式を迎えた訳だが、寝坊してしまうとは思いもしなかった。 “あんたは朝に弱いんだから、気をつけてね”  母親の言葉が蘇る。 ――ふぅむ、さすが母さんだ。伊達に息子を十五年も育ててない。  アパートの鍵をかけ、いつもの通りを駆け抜ける。学校への道は有名な桜並木なのだが、そんなこと今は知ったことではない。始業式は九時から。僕が校門の前に立ったのは、九時一分前の八時五十九分。もちろん周囲に人の姿は見当たらない。僕は、はぁと肩を落として掲示板へと足を向けた。 「よぉ!遅刻馬鹿」  百八十を超える長身の僕の親友、木戸雄介(きどゆうすけ)が声をかけてくる。バスケ部に所属しているため、体格もよく、髪型もスポーツマンらしく短く刈っている。  僕はそんな雄介を見て、むっと顔をしかめる。 「なんだよ、遅刻馬鹿って」 「始業式の途中で、遅刻しました! って飛び込んで来たら、ただの馬鹿だろ」  掲示板に向かったのだが、先生達によってしまわれていて、どこに行けばいいかわからなくなってしまった。そのために僕は、体育館に飛び込んだのだ。おかげでみんなの笑い者、さらにさっきまで校長室でガミガミ怒られ、教室に入って浴びた第一声が、遅刻馬鹿だったのだ。
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