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「…ありがとうございます。分かりました。俺…ここを出て、両親と暮らした…自分の家に戻ります」
「…私は何も言いません。好きなようにしなさい」
院長は、キャスを止めなかった。
院長には分かっていたのだ。
いつか、この子は真実を知り、ここを出て行くだろう。
でも、それでも、この子は強く生きていってくれる。
そう信じていたのだった。
「はい。今までお世話になりました。今日中に荷物をまとめて出ていきます。学校には今までどおり通います。皆によろしく言っておいて下さい」
「そうですか…淋しくなりますね」
「そんな…。それじゃあ、失礼します」
「キャス。困ったことがあったら、いつでも帰ってきなさい。ここは、あなたの家、あなたは私の…子どもなのだから…」
院長は優しかった。
しかし、キャスには、その優しさが辛かった。
今まで生きてきて、こんなにも消えてしまいたいと強く思ったことはなかった。
俺には、人に優しくされる資格なんてないんだ。
キャスは、泣きそうな微笑みを院長に向け、はい、と小さく答えた。
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