『第一章』 出逢い

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 「…ありがとうございます。分かりました。俺…ここを出て、両親と暮らした…自分の家に戻ります」  「…私は何も言いません。好きなようにしなさい」  院長は、キャスを止めなかった。  院長には分かっていたのだ。  いつか、この子は真実を知り、ここを出て行くだろう。  でも、それでも、この子は強く生きていってくれる。  そう信じていたのだった。  「はい。今までお世話になりました。今日中に荷物をまとめて出ていきます。学校には今までどおり通います。皆によろしく言っておいて下さい」  「そうですか…淋しくなりますね」  「そんな…。それじゃあ、失礼します」  「キャス。困ったことがあったら、いつでも帰ってきなさい。ここは、あなたの家、あなたは私の…子どもなのだから…」  院長は優しかった。  しかし、キャスには、その優しさが辛かった。  今まで生きてきて、こんなにも消えてしまいたいと強く思ったことはなかった。  俺には、人に優しくされる資格なんてないんだ。  キャスは、泣きそうな微笑みを院長に向け、はい、と小さく答えた。  
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