彼女の叫び

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「説明してくらさい」  わざと崩したその言葉に月村は微妙な顔をするが、夏奈は快く答えた。 「この時期には、学祭でバンド演奏する人達が校内で練習しているんです」  美紀は私立明名(みょうめい)高等学校に来てから一年目だ。知ることは出来るが、自発的にしなければ知り得ない。だが、それは一年生である夏奈も同じことだ。知っている理由としては夏奈が自発的に知っただけであり、先生に訊けばよい話だ。  美紀は夏奈の言葉を高音が聴こえないという意味で捉えた。 「聴こえなかったってこと?」  夏奈は頷く。そして付け足す。 「はい。それもありますが、練習ではマイクを使うので、マイクでキーンってなるものと勘違いして気付かないというものもあります」  月村は何も口出しをせずに「流石」と呟いた。 「そっか……」  高音は一つの教室にピンポイントで鳴る。だが、人が気絶するほどの音量になると勿論廊下にも響くのだが、バンド、吹奏楽など様々なものに遮られるということだ。  美紀にはもう一つ理解できない部分がある。 「放送室はなんなの?」  月村は疑問を聞いて夏奈に促した。 「夏奈」  答えることを任された夏奈は何も迷うことなく答えた。彼女もまた月村同様秀才か……。 「えと、高音は一つの教室にしか流れていません。つまりそんなことが出来るのは放送室。ということです」  放送室には流す教室を選択できる。使い方もスイッチ一つなので放送局員とは言い切れないが。  説明を終えた夏奈は月村を見る。月村のまっすぐな顔を見て怯んだのか「多分」と濁した。
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