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混雑時を過ぎた電車は、聡志の焦る心をよそに、いつも通りのスピードで紫陽花の間をすり抜けていく。
傘を忘れたと思い出す頃には、目的の駅で、小雨に舌打ちするしかなかった。
初顔合わせなのに。
水も滴るいい男だ?
冗談。
小雨の中、足早に初顔合わせの会議室を目指す。
周りが騒ぐほど、自分はいい男ではない。
かっこいいとか、笑顔が素敵とか、外見のことを言われても、萎縮してしまう。
正直、常に苦笑いでしか切り抜けていけてないと感じる聡志には、この笑顔しか作れない自分がコンプレックスの一つだった。
この顔のせいで、何を考えているか分からないと言われ、
それが原因で、女性に振られたことも何度もある。
だから、まだ演技が良いと言われたほうが嬉しい。
外見目当てのファンには伝わらない、聡志の心の叫びだった。
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