向こう側

2/17
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
祖父の訃報を受けたのは、 やっと人の手を借りず、仕事が出来るようになった頃の、 それこそ仕事の忙しい盛りだった。 山積みの仕事を前に、いまいち実感が湧かない私は、無表情のまま、社長に休暇申請を出した。 そのままデスクを片付け、家に帰り荷造りし、新幹線に乗って車窓を眺めていくうちに、自然と熱いものが頬を伝った。 幼い頃、幼稚園からの帰り道、雪に覆われた田んぼで鶴を見たとはしゃいだこと(実際は鶴どころか、白鳥でもなく、白サギだったらしい)。 相撲を見るか子供番組を見るかで取り合った、テレビのリモコン。 散歩に出かけるが、日に日に道端で座り込むことが増えた祖父。 そんな祖父の為に、家中に付けられた手すり。 和式から洋式に変わったトイレ。 それまで祖父母で布団だったのが、いつの間にか祖父だけベッドになったこと。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!