最終章。『謎は謎のままに』

41/43
前へ
/492ページ
次へ
「……お久しぶりです」 『同じ会社の人が犯人だったとは……大変な事になりましたねぇ』 「はははは、内でも外でも大騒ぎですよ」 『でしょうね。で、まだ捕まっていないんでしたよね』 「ええ」 磯貝が最後に目撃されたのは先週の土曜日の午後、駿哉と別れた後、東京行きの電車に乗る姿で、それはF駅の監視カメラでも確認された。そして、倉内の通報により、その日の午後には国内の各空港に緊急配備が敷かれたが、結局、磯貝は表れず、今日になっても搭乗手続をした形跡がないと言う。 『それでですね、今日お電話したのは、この前送らせて頂いた雑誌の感想をまだ頂いていなかったのと陣中お見舞いというかなんと言うか……』 「あっ、そうでした。スミマセン、すっかり忘れてました」 『あはははっ、別に良いですよ、こんな事になったんですから仕方かたがないですよ……ところで、磯貝という人はどんな人物だったんですか。あっ、これは取材ではなく飽くまでも興味本位からなんですが……』 「磯貝さんですか……そうですねぇ、私は優しくて思いやりのある素晴らしい人物だと今でも思っています」 『へぇ~~っ、身近とはいえあれだけの事件を起こした人物にそういう評価を下せるんですか。もし、籐野さんが裁判官になったとしたら、日本も今よりは少しはマシになるかも知れませんね』 「そんなあ、俺なんか」 『いや、お世辞じゃなくて本心です。おっと、もう11時。夜分、お疲れのところスミマセンでした。人の噂も何とやらで、大変なのは今だけですから何とか乗り切って下さい』 「ありがとうございます。岡部さんはこの後はどうするんですか」 『今、最終回の原稿を書いている途中で、書き上げればこの事件も終わりです。後は前から注目していた別の事件があるんで、今度はそれを追いかけようかと』 「そうですか。余りお役に立てずに申し訳ありませんでした」 『いえいえ、そんな事ありませんよ。まだ連載が続いてますから暇な時にでも読んでみて下さい』 電話を終えて考える。自分が裁判官なら磯貝さんにどんな判決を書くだろうか。分かっているだけでも6人は殺害している。普通なら、当然『死刑』だが、動機に情状酌量の余地はないものか、そんな事を考えているうちにいつの間にか眠りに就いていた。
/492ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1406人が本棚に入れています
本棚に追加