最終章。『謎は謎のままに』

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「えっ、じゃあ、磯貝さんが長沢光治さんを『光ちゃん、光ちゃん』って慕っていたあの『尚彦』という人で、松原さんの妹さんの子供だったんですか」 倉内は電話で松原さんに確認済みだとも伝える。 「信じられないなあ、磯貝さんが犯人だなんて……警察には?」 『もう言ってある。で、その磯貝って人は?』 「30分ぐらい前に帰りましたけど」 『籐野君に何もせずに?』 「はい、ただお喋りをしただけでした」 『それでこれからどうするって』 「今日の夜の便で『ヨーロッパに発つ』って言ってました」 『ヨーロッパに?』 「はい……」 と返事した後、続けて磯貝が料理の修業の為にこれからヨーロッパに渡るつもりらしいと話す。 『でも、それって、実は、国外逃亡じゃ……』 駿哉には返す言葉もなく黙っていると声が間宮に替わる。恐らく、倉内が運転している間宮の耳に携帯を当てているのだろう。 『ねぇ、駿哉、磯貝さんに変わった所はなかった?』 「いいえ、普段通りでしたよ……確かに、今、考えれば『あれっ!?』っていうような事は言ってましたね」 磯貝が犯人という事は微塵も思っていなかったのでその言葉を軽く受け流していた。 『本当にそれだけ? 何かされなかった?』 「いいえ、何も……ただ、お見舞いにパンを持って来てくれたのでそれを今から食べようかなって思っている所です」 『パンを!?』 そこで一旦電話は途切れ間宮と倉内が何かを話し合っている声が車のエンジン音とともに聞こえて来る。3分程して声がやっと届く。が、声は倉内に替わっていた。 『ねぇ、そのパンに変わったところはない?』 「いいえ、見た目は単なる普通のパンですよ」 『あのさぁ、おかしいと思わない。普通、病人の見舞いにパンなんて持って行かないでしょう』 「まあ、そう言われれば……」 『それでね、今、花穂さんと話してて気付いたんだけど【最後の晩餐】でイエス=キリストが12人の弟子達に振る舞うのが【パン】と【ワイン】なのよ』
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