最終章。『謎は謎のままに』

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「じゃあ、あのパンは何だったの」 そう話しながら間宮はキーを運転席側のドアに差し込みドアを開ける。 「よくは分かりませんけど、イエスが自分の死を悟って弟子達にパンとワインを振る舞ったように磯貝さんも俺にパンを持って来たのかも……」 「磯貝さんは自殺するって事?」 何かを喋ると予想が現実になってしまうような気がして駿哉は間宮の問いには答えなかった。気まずい雰囲気を察知した倉内が空かさず話題を替える。 「それよりお腹が空いたわね」 「ホント、お昼から何も食べてないもの。明日は日曜だし、どうせならあたしの家で食べない? 駿哉や愛子さんが来れば両親も喜ぶと思うの」 間宮も駿哉の沈んだ気持ちを和らげようとお腹の辺りを擦るような仕草を見せ、 「そうね、そうしよっか、籐野君」 と、倉内が助手席側のドアを開けながら後部座席のドアを開けた駿哉に答えを求める。 「そうですね、ここんところ、食事らしい食事をしていなかったので美味しい物でもご馳走になりますか」 「ようし、そうと決まれば今夜は夜通し飲むわよ。ねぇ、愛子さん」 「勿論よ」 笑顔になった3人はほぼ同時に車に乗り込む。直ぐに車は低いエンジン音を奏で人通りもない暗い道の中へ出るが、高音に変わるや、その後はまるで何事もなかったように闇の中へ姿を消した。 明けて月曜日、少し寝坊をした駿哉は新聞やテレビを見る事もなくアパートを出て会社へと向かう。そして、会社近くに来て驚いた。多数の報道陣が会社を取り囲んでいたのである。どこから情報が漏れたのか、警察が記者発表したのか分からなかったが、正面入り口付近ではテレビで見た事のある各局のレポーター達がマイクを持ちテレビカメラに向かって何かを頻りに捲くし立てていた。 会社の中も大騒ぎであった。苦情の電話は鳴り止む事はなく、会社に出て事情を知った女子社員の中には泣き崩れたり気を失って病院に搬送される者まで出ていた。部長の早瀬は『冷静になって対処し、マスコミの取材に対しては口を閉ざすように』と指示し、社内には箝口令も敷かれた。帰れば帰ったで、田舎、親戚、友人から引っきりなしに電話が入る。そして、漸く終わったかなと思ったところへ岡部からの電話が………。
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