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家は1メートルほどの鉄柵で囲まれ、所々に梅や桜の木が植えられてある。両隣に家はあるがどちらも10メートル以上と離れていて人影も見えない。そして、車一台分の道路の反対側には家はなく、こんもりとした林になっていた。
「随分、立派な家よね」
間宮の言う通り、普通の家の2階建よりは高い。こちら側の壁には白枠の窓がいくつかあり、2階部分は出窓になっていたが、ベランダやバルコニーらしき物は見えなかった。
「じゃあ、入ろうか」
空き家とは言え、他人の敷地内。後ろめたさを感じた駿哉は辺りを見回し誰もいない事を確認して5段程のステップのコンクリートの階段を上る。
「……鍵は掛かっていないみたいですね」
鉄門の隙間から右手を入れ、取っ手裏にある差し込み式の鍵のピンをゆっくりと抜く。それから高さ2.5メートル程の門を静かに外側に開く。
50センチ幅のコンクリート状の道が真っ直ぐ玄関まで続いており、左側には黄土色の枯れた芝生の広い庭がある。そして、その中程にあの新聞配達の青年が言っていたブロンズ像が立っていた。
「……もしかして、『女神』ってあの事?」
「そうだと思います」
後から続く間宮が立ち止まってそちらの方向を眺めている。そして、間宮がその薄汚れた芝生に足を入れ、そのブロンズ像に近づいて行くのを見て駿哉も慌て後を追う。
それは高さ1.5メートル程の女性像、花のリリーフが施された丸い台座の上に立ち、慈愛に満ち溢れた表情をして人間の全ての苦悩を受け入れるかの如くに両手を広げている。そして、足下には直径3メートル、深さ50センチ足らずのブロンズ製の円形の凹(くぼみ)があり、その中は枯葉やゴミなどで埋もれ底が見えなかった。
「どうやら噴水だったみたいですね」
駿哉はそう言いながら『足下の枯れた器』とは水が流れなくなった噴水を意味していた事をここで初めて知る。
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