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〈2〉
昼過ぎ、事件現場の一つを下見に行ったのはいいが、何も残ってはいない。住宅地なだけに人跡も多く、証拠は消えやすい。また、事件当日から既に一週間以上となると、時は立ち過ぎていた。
「まぁ、当然だな」
「如月さん、次の現場に行……」
僕がそう言い掛けた途端に、彼は疾風の如き速さで逃げ去った。仕事、やる気あるのか。いや無いな。
「あの野郎」
冬場の寒さは体に応える。何か温かい飲み物でも欲しいところだ。
人通りの多い街中に出ると、洋風の洒落た喫茶店を見つけた。店頭に小さな木製の看板を掲げ、和みのある丸太の机は風情を感じさせる。何となく気に入ったので、入ってみることにした。
「いらっしゃい」
小太りな中年男性が、客である僕を迎える。店内の小暗い感じがまた、心地よい。
「ごゆっくり」
店主は机の上にメニューを置くと、店の奥へと姿を消した。従業員は彼一人なのだろうか。辺りを見渡すものの、客が二人いるだけのようだ。
その際に“彼女”と目が合った。ほんの数秒間の出来事に、これほどまで印象付けられたものはない。彼女は所謂“美人”であり、もはや美人とされるそれを凌駕していた。
自身が映り込むような、真っ白の肌。瞳は淡いブラウン。髪色はさらりとした、それでいて染まりきらず、黒みを帯びた色。綺麗に整った二重に、すっと通った鼻。何もかもが完璧で、故に美しいのは当然のこと。
そんな彼女に心惹かれた。
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