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途端に、彼女の薄い唇がキッと締まった。僕が見つめ過ぎていたのだろうか、どことなく恥じらいを見せている。
「あっ」
自分の声かと疑いたくなるような情けない声を出し、僕は咄嗟に目を逸らした。あぁ、何て失態だ。これでは、ただの不審者じゃないか。
頬が赤くなるのを感じた。
「あの」
そんな時、僕のすぐ傍で声がした。彼女に話しかけられたのだ。もう何が何やら混乱の果てに突拍子のない言葉を発してしまう。
「あぁ! いや、その……素敵なストラップですね」
あぁ、僕はバカか。第一声にストラップを褒める奴がどこにいる。ブローチや髪飾り、その他褒めるべき所は沢山あるではないか。
「えぇ!? あっ、そうですか? ありがとうございます」
彼女はそう言い終えると、クスッと笑った。そんな笑顔とは対照的に、胸中で消えてしまいたいと思う僕がいたという事実。
「あっ、ごめんなさい。ただ、あなたが面白い褒め方をするものだから、つい……」
「いえ、こちらこそすいません。第一声に、ストラップを褒めるなんて意味が分からないですよね」
そう言いつつ、赤面する。
「ふふっ、面白い方ですね。何処かでお会いしませんでしたか?」
こんな別嬪さんを忘れるはずがない。つまり、記憶にないということは、面識がないということだ。
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