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「恐らく、初対面かと。残念ながら……」
「あら、そうでしたか。失礼しました。ただ、どこかで見たような気がしましたので」
なるほど、そういうことか。何度か新聞等のマスメディアに載ったことがある。その時にでも見たのだろう。
「隣、よろしいですか?」
「え? えぇ、勿論」
彼女の予想外の行動に少々驚いたが、そんなことよりも高揚した気分が勝る。断っておくが、下心はない。
「エスプレッソを」
「あっ、僕も同じものを一つ」
彼女につられて注文したのはいいが、実のところエスプレッソが苦手である。あぁ、しまったと後悔するも時既に遅い。
「ところで、あなたの名前は?」
僕は思い切って尋ねてみる。彼女はメニューを定位置に戻し、微笑みながら答えた――その微笑みにストライク。
「鈴鹿雫(すずかしずく)です。あなたは……」
「神無月空です」
「あっ」
僕の名前を聞くなり、小さな驚きの声を漏らした。気付かれてしまったのか、彼女の様子が急に慌ただしくなる。
「えっ!? まさか、あの……えぇ!?」
「そうです。隠すつもりもなかったのですが」
「東帝大学の教授さんですよね?」
はい?
「いや、多分、違います」
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