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彼女の外見からは判断できない生物分野の博識ぶりに、僕は圧倒されるだけだった。
三十分ほど会話をし、彼女も予定があるらしく、二人は喫茶店を出た。ほんのり肌寒い中、昼間の陽光が体に浸透する。冬場の陽光は差し込み方が違い、服を通して温かみを感じる。
「今日は楽しかったです。また会えると良いですね」
彼女は微笑みながら、そう言った。素直に喜ばしいことなのだが、なかなか電話番号を聞き出すことのできない僕がいた。なにしろ“疎い”のだ。
「えぇ、また」
僕はそれだけ言い、帰路へと向かう。そんな姿をチラリと見つめる彼女もまた、“疎い”のだろうか……。
「また明日、この時間に来ます!」
突然、背後から彼女の声がした。嬉しさと驚きのあまり、振り返ることもできない。僕は気障にも手を軽く上げ、「また明日」とだけ言い残し、街路へと消えて行った。
「気障だったかな」
誰もいない寒空に向かって、僕はひとり呟く。「また明日会えるんだ」そんな期待と興奮を抱き、顔に笑みがこぼれる。
「僕は……」
彼女に恋をした。
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