男女の契り≠ボク

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   客室はブラウンの壁紙に覆われた品のある部屋になっている。事務所自体は小さなものだが、客室と応接間には僕のこだわりがあった。    依頼人が落ち着いて話ができる空間を用意しておくことも、仕事の一つだと心得ているからだ。   「つまらないものですが……」    男性は紙袋から菓子箱を取り出し、僕に渡した。本来、このようなものは必要ないのだが、貰ったのに受け取らない訳にはいかない。緑茶を入れに行くついでに、菓子箱を戸棚にしまう。   「で、詳しい内容は?」    お盆に湯飲みを乗せ、彼のもとへと運びながら尋ねた。そもそも、この事務所には僕と如月の二人しかいないので、お茶を汲んでくれる人もいない。    誰か可愛らしい秘書さんでも雇いたいのだが、残念なことに資金に余裕はない。自分で運ばざるをえないのだ。   「あっ、ありがとうございます。はい、依頼のことなんですが……」    男性は緑茶を一口、ゴクリと喉に流し込むと、咳払いをした後に話し出した。  
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