その③

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そこから、数十分。 駅につく。 探さなくとも、すぐ目に入る姿。 何処にいたかという追求に、今度は仕方ないが、彼女の家にいたと言おうと佐賀は思った。 「はようっす。」 「はようじゃねぇ!」 挨拶するなり、両肩を掴まれた。 荒々しい声に、険しい表情で辻は佐賀を上から下までを見た。 「お前、瑛人になにかされなかったか!?」 「え…」 「服、服脱げ!」 駅前の朝っぱらからとんでもないことを言い出す辻。 「え、え…センパイ…?」 「…直太朗…」 夏休みのない社会人は通勤途中。 それなりに人が流れる中。 両肩をがしりと掴まれたまま。 「…オレが悪かった!だから、他の男と浮気だけはやめてくれ!」 それは、しっかりとした大きな声だった。 「えっ…え、ちょっ…センパイ…!」 言われた言葉にか、こんな状況でだからなのか、佐賀は真っ赤な顔。 それにも、周りにもかまわず辻は続ける。 「アイツ、夜にお前の携帯から電話してきやがった!!」 ガシガシと体を揺さぶられる、佐賀の顔が青くなる。 「え…え…えぇっ!?で、電話って!?」 「あーーーーっ!!!!!!」 辻の目が見開かれる。 それから、グイとシャツの首をひっぱられた。 「直太朗!!マジで!?マジでオレがあんま構ってやんなかったのが悪かったから!!勘弁だよ!おい…」 大声は終いには、泣き声交じりの小さなものへと変わっていく。 がばりと、そのまま肩を抱き寄せ、その首筋に顔を埋め、シクシクと声を出し始めた。 `
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