敗退の記憶

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ぱんっと下駄箱の床が砂埃を上げる。 あー…だりぃ… ぼーっと帰路につく加持。 何もしなくてもジワジワ熱を生み疼く頬。 思い出すのは… 「青木…」 悔しさよりただ純粋に、強かった… ぽっかり胸に穴が空いた、そんな感。 「何?」 丁度正門をでたところだ。 「っ!!なっ…」 目の前にぽつりと呟いた名前に返事をしたのは青木智学本人だった。 「あっ…いっいや…テメェ何でいんだよ」 「???」 またもや理不尽な言い方に、首を青木は傾げるが、我慢していたものが先だった。 「それより、加持。タバコ」 さもかし当然のように右手を青木は差し出す。 「あ?」 「タ・バ・コっ」 「なんでテメェになんか…」 「コイン貸したヤツを殴った不義理なヤツだから、タバコ」 早くと手をしつこく差し出す。 確かに、青木は悪くないのだ。 負けた今思えば尚更。 仕方ないと加持はポケットからタバコを取り出し差し出す。 それで終わりかと思えば 「なんだよ…」 帰る方向に今登校したばかりの、青木が付いてくる。 「帰んの?」 「テメェは来たとこだろーが…なんでこっちだよ」 「火ぃないし。」 再び手を差し出す青木。 昨日自分の顔面を殴った手だ。 加持はまじまじそれを見つめていた。加持自身それにしばらく気づいてはいなかった。 「なに?なんか手についてん?」 不思議がる青木に、加持がハッと顔を上げる。 「わっ…」 近かった。 眉をちょいとあげた切れ長の青木の瞳と目が合い なぜか、赤面した加持。 「火ぃねんだけど…」 「あっ…あぁ」 悪ぃとなぜか謝りライターを差し出した加持。 触れた指先にまた、びくつき頬が熱を上げたのは紛れもない事実だった。
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