それぞれの

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「ざまぁねーの」 いわれたのは桜井和宏。 赤高二年。 中学時代は無敵を誇った男。 一年の青木智学に敗れた翌日。 頬に大きな湿布。 指先に包帯。 言ったのは彼の幼なじみ、繁泉慎。 頭脳明晰成績優秀。 「うっせぇ」 幼なじみとは言え気の短い桜井は繁泉をじろりと睨みつける。 坊主頭で凶悪なそれなのだが、慣れたものでびくともしない繁泉。 「和宏、頭も悪いのに喧嘩まで弱いんじゃあ洒落にならねえよ?」 桜井のこめかみに青筋がたつ。 がたりと椅子が音を立てる。 胸倉をつかむ勢いで桜井は繁泉に間近に顔を突き合わせる。 「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ…慎」 「事実だろ?」 身長は同じくらい。 だといのに繁泉の完璧に見下されたような視線。 いつからこんな風になったのか… 「てめー…俺に勝てると思ってんのかよ…」 地をはうような桜井の声は、もはや幼なじみに対するそれではない。 自分の後ろにひっついてた奴が、自分に勝てる訳がないのだ。 「誰が勝てないて言った?」 嘲笑うかのよいな繁泉の口元。 「和宏、俺昔っから助けてなんていってないし」 言う前に助けにきた? いいや勝手に負けると思って、繁泉の喧嘩に割って入っていたのか… 桜井の目が見開かれる。 冷たい水を被った気がした。 血の気がざっと引く。 「慎…」 こんなはずじゃなかったはずだ。 今じゃ、桜井は目の前の男が誰であるかすらわからない。
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