その③

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翌朝7時。 久しぶりの着信音で、佐賀は目を覚ました。 しかし、見慣れない天井に、見慣れない、肌のタトゥー。 「あ…」 携帯のディスプレイには、辻先輩の文字。 すごく後ろめたい気持ちになった。 それは、どちらになのかは定かではなかったが。 そろりと隣で眠る千葉に背を向け、通話を押す。 腕枕をされているせいで、いまだ肩に感じる温もり。 優しい人で本当によかったと思った。 「直太朗!?お前、今何処!?」 えっ… なんてタイミングの悪い。 「…どうしたんですか?」 上手くはぐらかそうと、質問には答えない。 彼女のところと、嘘をつくのも、外の彼女ならばなんとでもできるのに、何故か辻にはそれすらできない。 やはり、これが本気ということなのか。 「だから、何処!?」 ちっ… どう切り替えそうか佐賀は言い淀む。 隣でシーツのすれる音がした。 それすら、聞こえてしまえばバレるのではないかと佐賀はひとりハラハラした。 「あー、もう、いい。いいから直ぐに駅に来い。今すぐだ。」 苛立った辻の声。 きっとそれは後の千葉にも聞こえていたに違いない。 佐賀が電話を切り後を振り返れば、眠そうだが、微笑んだ千葉がいた。 「彼氏?早く行ってあげな」 微笑んだという表現は間違っていたかもしれないと、佐賀が思うまであと数十分。 「すいません、本当にお世話になりました!」 身支度を整え、佐賀が玄関先で深々と千葉にお辞儀をする。 まだ、寝ていたままの服装で千葉は笑いながら佐賀を見送る。 「佐賀、気をつけろよ?今度付いていったやつがいいヤツとは限らないんだから?」 「はっ、はい…!」 照れくさそうに笑い、佐賀は部屋を後にした。 `
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