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彼の財布から、携帯番号の書かれた名刺が出てきた。『ひろみ』と書かれている。きっと、とても可愛らしい人なんだろう。彼は、美人より、可愛いがタイプだから。
わたしの頭の中で『ひろみ』を作った。『ひろみ』は小柄で色が白く、目がくりっとしている。ストレートボブのさらさらした髪からは、シャンプーの香り。
『ひろみ』は、わたしに対して勝ち誇ったような仕草を見せた。何だかわたしはとても複雑な気持ちになって、鏡に向かってピアスを投げつけた。彼がくれた、黒い石の施されたピアスを。
彼は、あなたのこと嫌いなんだよ。好きなのは、あたし。
『ひろみ』はそう吐き捨てた。
歯痒くなったわたしは、『ひろみ』の頬目掛けて右手を振り上げる。
そんなこと、してもいいの?
彼にもっと、嫌われちゃうよ?
『ひろみ』は、わたしには嫌らしい態度をとった。それでもきっと、彼からすると、いい女なんだろう。
スタンドミラーを、床に投げつけた。大きな亀裂が、写ったわたしの顔を歪めている。
『ひろみ』は、笑っていた。
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