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あれからどれほど経ったのかわからない。
ようやく視界が開けてくると、立ちすくむ優也の目前には、霧がかかったような白い世界が延々と広がっていた。
何もない、ただひたすら白い世界。
これが「無」なのだろうかと考えてしまうような恐ろしい光景だった。
自分すら見えない。
声も出せない。
優也は何もできずに、ただ自分自身を持て余すしかない。
一体どれくらいこうしているのだろう。
時間の感覚も奪われてしまったのだろうか。
(でも、いったい何に……?)
このまま考えていても埒が明かない。
どうにかしなければ。
ようやくそう思いたった時だった。
どこからかクスッという笑い声が聞こえたかと思うと、それを皮切りに、少しずつ目の前の霧が晴れていく。
気が狂いそうなほど綺麗だった、染みひとつない世界が崩れ始めた。
それとは反対に、鮮やかな色彩が見る見るうちに蘇ってくる。
しばらく経ってからふと気が付くと、優也はいつの間にか見慣れない景色の中に独り佇んでいた。
先ほどまで広がっていたあの異様なまでの白さは、もはや微塵も感じられない。
あまりの急展開に、優也にはどういうことだかさっぱりわからなかった。
状況がこれっぽっちも掴めずしばらく呆けていた優也だったが、少しずつ頭の整理がついてくると、次第に普段の冷静さを取り戻し始めた。
ぽりぽりと頭を掻きながら、とりあえず周囲を見回してみる。
目に映る大地は、辺り一面が深い緑で覆われていた。
広大な草原を涼やかな風が駆け抜け、さわさわと草花を踊らせる。
どこからか鳥の囀りまで聞こえてくる。
優也は驚きもいつの間にか忘れ去り、賑やかな木々のざわめきを聴きながら未知の土地を散策しだした。
方向も決めないまましばらく歩いていると、山頂が雲で覆われた大きな山の方から、一本の澄んだ川が流れているのを見つけた。
「すっげー……」
大自然の迫力を目の前で見せつけられて、無意識にそんな言葉が零れていた。
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