指針

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  * * * あれからどれほど経ったのかわからない。 ようやく視界が開けてくると、立ちすくむ優也の目前には、霧がかかったような白い世界が延々と広がっていた。 何もない、ただひたすら白い世界。 これが「無」なのだろうかと考えてしまうような恐ろしい光景だった。 自分すら見えない。 声も出せない。 優也は何もできずに、ただ自分自身を持て余すしかない。 一体どれくらいこうしているのだろう。 時間の感覚も奪われてしまったのだろうか。 (でも、いったい何に……?) このまま考えていても埒が明かない。 どうにかしなければ。 ようやくそう思いたった時だった。 どこからかクスッという笑い声が聞こえたかと思うと、それを皮切りに、少しずつ目の前の霧が晴れていく。 気が狂いそうなほど綺麗だった、染みひとつない世界が崩れ始めた。 それとは反対に、鮮やかな色彩が見る見るうちに蘇ってくる。 しばらく経ってからふと気が付くと、優也はいつの間にか見慣れない景色の中に独り佇んでいた。 先ほどまで広がっていたあの異様なまでの白さは、もはや微塵も感じられない。 あまりの急展開に、優也にはどういうことだかさっぱりわからなかった。 状況がこれっぽっちも掴めずしばらく呆けていた優也だったが、少しずつ頭の整理がついてくると、次第に普段の冷静さを取り戻し始めた。 ぽりぽりと頭を掻きながら、とりあえず周囲を見回してみる。 目に映る大地は、辺り一面が深い緑で覆われていた。 広大な草原を涼やかな風が駆け抜け、さわさわと草花を踊らせる。 どこからか鳥の囀りまで聞こえてくる。 優也は驚きもいつの間にか忘れ去り、賑やかな木々のざわめきを聴きながら未知の土地を散策しだした。 方向も決めないまましばらく歩いていると、山頂が雲で覆われた大きな山の方から、一本の澄んだ川が流れているのを見つけた。 「すっげー……」 大自然の迫力を目の前で見せつけられて、無意識にそんな言葉が零れていた。
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