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「――え?」
『君は、本当にそれでいいの?』
透き通った声が、朦朧とした意識の中に溶けるように響いた。
『――今諦めたら、もうこれでおしまいなんだよ? 君はこんな時にも何もしないで諦めちゃうの?』
「それは――……」
一番触れられたくないことに触れられて、不覚にも言葉に詰まってしまう。
まさか姿も見えない相手に説教を食らうなど思いもよらなかった。
ただこのまま黙っているのも癪だな、そう思い、優也は今の精一杯の反抗を喉の奥から無理やり絞り出した。
「……っ、この状況で一体どうしろって言うんだよ!」
何一つ満足に見ることのできない今の自分に、この声は一体何をしろというのだろう。
確かにすぐに諦めてしまうのは悪い癖だし、自分自身そういう所は大嫌いだ。
直さないと、とも思う。
『ふうん。じゃあ、ただ尻尾巻いて逃げるんだ?』
声の主が、感情を含まない平坦な声色で言った。
――違う。
本当は逃げたくなんかない。
だけど――。
「――うるさいな、何も知らないくせに……。そりゃあ俺だって変えたいとは思うよ。でも……そう簡単にいくわけがないんだ」
もう自分がどこを見ているのかもわからなかった。
いや、むしろ見ているのかすら怪しい。
不確かな状況を嘆くように、優也はきつい口調で言葉を紡ぐ。
「第一いい方法も見つからないってのに、一体どうしろっていうんだ? 今だって俺は前もろくに見えないんだぞ? こんな状態じゃ、できるもんもできやしないよ」
皮肉な笑みを浮かべて、嘲るように鼻で笑ってやった。
それで気分を害したのか、声の主はそれっきり黙り込んでしまった。
長い沈黙が真っ白な空間に静かに流れていく。
(どいつもこいつも綺麗事ばっか並べやがるくせに、結局は上辺だけなんだ)
そんな冷めた考えがふと頭をよぎった時、沈黙の壁を破るように再び声が響いた。
『――じゃあ、見えればできるんだね』
声がそう言い切った次の瞬間、優也は強い輝きに包まれ、とうとう意識の糸がぷつんと途切れた。
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