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――どこからか、音が聴こえる。
聞き覚えのある音だ。
近づいては離れ、また近付いてくる不思議な音が、疲れた耳に心地いい。
何の音かははっきりしないが、どこか懐かしい響きを含んでいる。
それと共に、ひんやりとした冷たい感触が、幾らか間を置いて優也の頬を撫でた。
一体何の音だったろう。
等間隔のリズムと、冷たい感触。
口に当たると少ししょっぱい。
もう少しで記憶と結びつきそうな気がするのだが、意識が朦朧としているせいかなかなか思うようにいかない。
――起きろよ、おい、早く起きろって。
自分の意識に呼びかけると、段々と覚醒していくのがわかる。
そのうち、「ああ、そうだ。思い出した」と、ようやく脳に一片の記憶が浮かび上がった。
これだけは間違えようもない。
どこの世界も、どうやらこの音だけは同じなようだ。
そう、この音は――。
波の音、だった。
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