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堂々巡りの思考に嫌気が差し、優也は気分を変えようとふと空を仰いだ。
ついさっきまで赤々と燃えていたはずの天は、いつの間にか紫色に侵されつつあった。
優也は空虚な気持ちのまま目に沁みるような黄昏を眺めていたが、しばらくするとようやく視線を外し歩き出す。
すると優也の茶色の瞳が、翳りつつある薄明の中、長く続く道の先にうっすらと光る何かを捉えた。
目を凝らして見てみると、宙に浮かんだそれは靄のように朧気な物体で、蛍のように微かな明滅を繰り返している。
その靄の正体がいったい何なのか、ここからでは遠過ぎてよくわからなかった。
確かに蛍にも似ているのだが、それにしては少し大きいような気もする。
なぜだか無性にあの光の正体が知りたくなって、気が付くと優也は考えるよりも先に走り始めていた。
だが、どれだけ走っても、あの光に近付いている気配は一向に感じられない。
ただ足にかかる負担だけが、進む度に重く大きく伸し掛かってくる。
そうやって体に重圧を感じたまま、柄にもなく息を切らして一キロほど走った頃だったろうか。
ようやく優也と光との距離が少しずつ狭まり始めた。
遠い光が、まるで優也に引き寄せられるかのようにゆっくりと、けれど着実に近付いてくる。
優也は足を動かしながら、今までにないほどの興味が自分の中で渦巻いているのをはっきりと感じ取っていた。
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