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私はトラブルを避ける為、嫌がらせされても一々相手になんかせず、無反応でいた。
懲罰が嫌だからって理由もあるけど、喧嘩になって痛い思いをするのが怖いから。
暴力が、怖いから。
喧嘩なんかしても、痩せ細り非力な私は絶対に勝てないし、ただ痛め付けられて、懲罰くらったり、行刑成績評価にマイナスが付くなんて馬鹿らしい。
だから、大人しくして幼稚な嫌がらせに耐えればいい。
そう決めていた。
刑務作業で、衣類制作の単純作業を終えた。
慣れない作業故の腰の痛みを感じながら雑居部屋に戻り、部屋の隅まで行き、ドサッと座り込む。
人間関係が苦手な為、この雑居部屋で親しくなれた人なんか居るはずもなく、会話することなく、壁を前に――皆に背を向けて一人座っていた。
何かする訳でもなく、ただ、ぼんやり体育座りをして考え込む。
両親の事。
タクの事。
サトミさんの事。
そして――危険な状態のままのミクの事。
血を流したミクを思い出し、体育座りのまま頭を抱えた。
その時――
ドカ
急に背中を強く蹴られた。
体勢を崩しながら振り向くと、怒りの形相で私を見下ろす、同室の女が居た。
86番の受刑者……。
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