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騒ぎを起こした絵理子さんは懲罰となり独居房に移された。
ずっと無抵抗でいた私にはお咎め無し。
……懲罰が嫌で無抵抗になったのではない。
ただ、「虐待」という罪を言われ、怒鳴られ――抵抗なんかする気力すら起こらなかった。
叩かれても、無抵抗……まるでミクみたいに。
「絵理子はね、夫を殺して刑務所(ここ)に来たんだよ。暴力的な夫でね……我慢してたみたいだけど、酒に酔った夫が娘にまで手を出したから、刺したんだって」
看守と絵理子が去った後、92番の千鶴がぼやく様に言った。
「自分だけなら未だしも、娘まで酷い暴力を受けるのを見て、遂に耐えられなくなったんだと」
「娘を守りたかったんだろうな……。だから子供を虐待したアンタか許せなかったんださ」
私を軽蔑の眼差しで見ながら冷めた声で言ってきた。
それに返事もせず無反応な私に、千鶴は「アンタは最低だね」と言い放った。
最低。
この言葉を否定なんかしない。自分でもその通りだと思うから。
私と同じく、DVを受けていた絵理子さん。
絵理子さんは娘を守る為、夫を殺してしまった。
私は娘を虐待した。
私もタクを刺せば良かったの?
こんな馬鹿げた事を一瞬だけ思ってしまった。
どんな理由があろうと、夫を刺したら罪は罪だ。
自分の罪を棚に上げて私の罪だけを責めないでほしい。
だけど――絵理子さんが泣きながら私に怒った事、殴ってさえきた事。
何故か、受け入れられる自分。
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