アヤサ  面会

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「ミクの入院費位はこちらで払おう。そして、ミクが死んだ場合も葬儀代位は出す」  さらりと言った義父の言葉。  それを聞いて、一瞬頭の中が真っ白になった。  ……はぁ?   この男、いけしゃあしゃあと何言うの?  何でも、金で解決したがる義父。   ミクに対しても、入院費で解決しようとしてる。   それまでは、まだいい。   この男は「葬儀代」なんて言った。   それは当然、ミクの死を意味した言葉。   ミクに対して、死んだら葬儀代って、そんな事を考えてるの……?   そりゃ、私だってサトミさんの前で、ミクについて縁起悪い事を言って怒らせてしまったけど……。   ミクが危険な状態で、そんな事を簡単に言った義父が、腹立たしかった。  怒りからか無意識に呟いてしまった。 「……帰れよ」 「えっ?」  私の言葉に、疑問符を浮かべたような顔をする。 多分、その顔だと聞き取れなかったのだろう。呟いて言った言葉だし。  ……聞こえなかったのか?じゃあ聞こえる様に叫んでやるよ。 「帰れよ!」  義父が目を見開く。ずっと俯いていたタクも驚いて顔を上げる。 私は取り敢えず叫んだことを監視官に頭を下げて謝る。 「何だ!罪人の分際で失礼な!」  そう言いながら睨み付け、義父は乱暴に立ち上がる。ガタンと椅子の音が響いた。  「行くぞ!気分悪い」  そう言ってタクの肩を掴む義父だが、タクはその手を力なく払う。  「俺は……まだ話があるから」  「そうか。俺は気分が悪いから先に出る。第一、刑務所なんて場所自体来たくはなかったんだ」  声からも怒りが伝わる。そして義父は早足でこの場所を去る。   目の前はタクだけになった。
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