アヤサ  面会

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 罪を悔い、苦しむ。   それは当然の事かもしれない。   大罪を犯して罪の意識も無い方が人として問題だし。   そして――絵理子さんも……罪の意識から死にたいと考えた事を知らされた。   無口な絵理子さんが珍しく語ってくれた。    そしたまた語る。 「私は死にたくなった。殺人者としてこれからを生きるより、早く死にたかった。死のうとした。  だから、フラつきながら台所に向かい、包丁を手に取った。自分を刺そうとした。  でも、出来なかった。  だって、目の前には娘が居たんだもの。  娘はショックのあまり、放心状態だった。  そして、気付いた。  可愛そうなのも、辛いのも、私じゃない。父親に殴られ、目の前で父親を母親に殺されたこの子だって。  助ける為だって、娘にしたら辛い現実。  ここで私が自殺したって、更に娘を苦しめるだけ。  娘を助ける為にやったんだから、死んだら駄目だ。  私は生きて、償う。償う為に生きると決めた。死んでしまった夫より……娘への償い。  そして自首した。  罪の償いの為と、娘への償いの為」 「……」 「だからアンタも自殺で逃げようと考えるな。これからは、虐待した娘に償うために……生きな。  うまく言えないけど……死のうなんて思わないで、娘の為に……生きてほしい」 『生きてほしい』   それは、意外な言葉だった。 「確かにね」  今まで黙って絵理子さんの話を聞いていた千鶴が言った。  「小さい子供ってのは、どんな事されても、親を……特に母親が大好きだからね。  確かにアヤサが言うみたいに、虐待した親は死刑だって言う奴等はいる。でも、死ぬより……やっぱ、今度は子供の為に生きろと思うね。綺麗事みたいだけど、被害者である子供は親の死なんか望んでないからな。  子供は親に愛される事を望む。だから、今度は愛してやれって言いたいね。  だからアンタ、死ぬんじゃなく、愛してやれ。それが無理でも、償う為に娘を優先して生きろ。  それが今後のアンタの生きる道だ」  今まで私に数々の嫌がらせをしてきた千鶴からの、意外な言葉。  「……私が、生きて、いいの……?」 「だから生きろと言ってるだろ、馬鹿」  呆れたように千鶴が言い、それを聞いた皆がクスッと笑った。
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