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「あの……初めてお会いします……よね?
すみません、最近物忘れが激しくて……」
そう遠慮がちに話す女性。
「初めまして。私は、ミクちゃん達が住んでいたマンションの隣室に住んでいる者です」
そして自分の名前を言い、ミクちゃんを預かっていた事なども話した。
「それじゃあ……あの時……、ミクがこの怪我で病院に運ばれた時とか……迷惑を掛けてしまったわね。
娘に代わり、私からも謝ります……。本当に……すみませんでした。
私は、アヤサの母親です」
そして、深々と頭を下げた。
アヤサさんの母親と聞き、「やはり」と思った。顔立ちが似てるから。
そして……疲れた表情も、似てる。アヤサさんも、いつも疲れている様な……悪い言い方をしたら「暗い顔」をしていた。笑顔なんて、一度も見なかったことに今気付いた。
「本当に……すみません……」
謝りながら、肩を小さく震わせている。そして、双眸から涙を零した。
「あの、謝らないでください。私こそ、すみません。隣に居ながら……近くに居たのに、ミクちゃんを助けてあげられなかった」
私もつられたのか、罪悪感からか、涙が溢れてきた。
「私は、アヤサの母親でありながら、アヤサの辛さも知らず、気付かず……虐待にも気付けなかった」
泣きながら言われたのを聞き、胸が痛んだ。
だって私は――
「私は近くに居て、虐待にも気付いていた筈なのに――ミクちゃんを助けられませんでした」
そう言って、頭を深く下げた。
頭を上げると、私の言葉を聞いたアヤサさんのお母さんは涙を溜めた目を見開いて、私を見詰めた。
私は再び頭を下げた。そして、ちらりとミクちゃんの寝顔を見た。
見舞に来て、何度も見た「寝顔」。
私がちゃんと虐待を止めていたら、今頃寝てなんかいなかっただろう。
ごめんなさい、アヤサさんのお母さん。
ごめんなさい、ミクちゃん。
そして、アヤサさんも――気付きながらも結局何の力になれず、ごめんなさい。
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