25567人が本棚に入れています
本棚に追加
今、目の前に居る人の大切な孫を救えなかった。
罵声を浴びせられる覚悟をした。……叩かれるかもしれない。
そう思うと自然と手に力が入り拳を握ってしまう。
「サトミさん、でしたっけ?」
……?
てっきり怒鳴られると思っていたが、掛けられた声が優しかったので拍子抜けしてしまった。
「えっ?… はい、サトミです」
そう答えて顔を上げると、優しい表情が私を見据えていた。
「サトミさんが、毎日のようにミクのお見舞いに来てくれたのね……。看護師さんから聞いたのよ。
私は忙しさを理由に今まで孫の見舞にも来れなかったのに……ありがとう」
それは予想外の言葉だった。
こんな私に有り難い言葉をもらったのに、私は思わずマヌケな顔になってしまってた。鳩が豆鉄砲食らった顔ってのをしてしまっただろう。鏡で確認しなくてもなんとなく分かった。
慌てて表情筋に意識を向ける。
だって私は「ありがとう」なんて言われる様な立派な事をしていない。勿体ない言葉。
戸惑ってしまった私はただ、アヤサさんの母親である女性を見詰めた。
「ミクは、あなたがお見舞いに来てくれたから、寂しくなかったわね。いや、入院する前も……あなたが相手してくれたのよね。
ミクの父親は、ミクに無関心だったし、母親のアヤサも…………。
そんな中、サトミさんはミクの支えになってくれていたのね。
ありがとう」
今度は嬉しすぎて目頭が熱くなった。……又泣きそう。
こんな言葉を掛けてもらえるなんて思わなかったから。
私は一呼吸して心を落ち着かせて、言った。
「ミクちゃんは……。アヤサさんが、ママが大好きな子だから……私だけがミクちゃんの支えではありません。アヤサさんも、母親として充分ミクちゃんの支えになってました」
最初のコメントを投稿しよう!