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それでも申し訳なさそうにしながら帰ろうとするアヤサさんのお母さん。会釈して部屋から出ようとする。
その姿を見てると咄嗟にある事を思い付き、慌てて呼び止めた。
「あっ!あの、すみません。連絡先を教えてください」
相手は急いでるから私も素早くバッグを開く。目当ては携帯電話だけど大抵バッグの底に沈んでいる。急いでいる時に限って直ぐに取り出せない。中から見えた花の飾りのストラップを掴み、乱暴に携帯電話を取り出した。そして、早押しで自分のプロフィールページにして赤外線送信モードにする。
「携帯いいですか?赤外線でプロフィール送りますからワンコールお願いします」
携帯電話を向けながら駆け寄る。すると、困惑した顔をされた。
やっぱり急いでる時に迷惑だったかしら。
謝ろうとした時、先に言われた。
「私、機械は苦手だから携帯電話持ってないのよ、ごめんなさい」
そして、又申し訳なさそうな顔をして小さく笑う。
「……すみません」
携帯電話が普及しているが、だからといって皆が所持してる訳ではないのよね……。私は自分の行動に苦笑いしか出来なかった。携帯電話を向けていた手を下ろし、パタンと力無く閉じてしまったが、慌てて閉じたばかりの携帯電話を再び開いた。一人慌ただくて恥ずかしい。
「電話番号と名前、教えてもらえますか?すみません」
携帯電話は無くても固定電話があるのよね。
携帯電話を電話帳登録画面ににしながら、急いでる邪魔にならない様に、私も個室を出て一緒に歩きながら尋ねた。そそっかしい奴と思われてるだろうなぁ……。
「名前から言った方が良いのかな?……小堺朋代よ、あっ、トモヨは月を二つ並べて朋に、時代の代」
嫌な顔一つせず、わざわざ漢字を丁寧に説明してくれた後、電話番号をゆっくりと言ってくれた。
朋代さんの番号を携帯電話に登録して、改めてお互い挨拶をしてエレベーター前で別れた。
急いでいる時に迷惑だったろうに、笑顔で会釈してくれた。
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